電話機の音

ADSL全盛の兆しが見えるこのごろだが、僕はいまだにISDNを愛用している。ADSLに申し込もうとしたら、電話番号が変わる・・と云われてしまい、気持ちが萎えた。で、電話するにもパソコンでインターネットするにも、TA(ターミナルアダプタ)という小さい機器が必要不可欠になる。こいつはISDNというデジタル回線に乗ってくる音声データをアナログにしてくれる、いわばDAとかADの役割も担っている機械らしい。だから僕の仕事場所では普通の電話機をこいつに接続して会話をすることになる。

ある夏の夜のこと、雷が発生した。落雷も一度や二度でなく、連続して爆音をとどろかせていた。大雨も屋根を叩きつけていた。
いつものようにパソコンに向かってメールを読もうとしたが、接続されない。最初はプロバイダの接続がよほど混雑しているのだろうと思っていたが、何度やっても繋がらない。調べると電話も繋がらなくなっていた。これは一大事と電話局に携帯を使って電話して回線を調べて貰うことにした。以前にも何回か回線工事で不通になったことがあるから、又か、と高をくくっていたが、今回は外れた。どうやらTAがやられたらしい。
昔の僕ならきっと故障個所をみつけて・・・なんて遊んでいたかもしれないが、今はそれほど暇な身分ではない。
翌日、大慌てで適当なTAをパソコンショップで購入。急いで入れ替えたら一発で復帰。メデタシメデタシ、といいたいところだが、今回の話の本題はこれからだ。
電話の音がまったくひどいモノになってしまったのである。比較すると今までのものはアナログレコードのような落ち着いた深みのある音だった。それがなんと、コードレス電話によくあるナローでやかましい音に成り下がったのである。
TAにも音質がある!と、そのとき気が付いた。かといって、買ってきてしまったからには今更交換するわけにもいかない。第一、TAの試聴!なんて云ったらパソコンショップのお兄さん、目を点にすることだろう。
しかし、これでは接客に支障が出る。音質を売り物にしているくせにイルンゴの電話はひどい音だ、そういう噂が全国的に流布されたら倒産の危機だ!と、心中焦ったのだが、そういうそぶりを見せずに、僕はじっと考えた。
この騒々しい電話の音はなんだ?チェック用に接続した天気予報の無機質な声を聴きながら、しばし沈思黙考。
こういうときは、機器の周りを色々見渡すに限る。
よく見ると新しいTAは樹脂ケースが薄っぺらく、軽い。どうも筐体がチャチになったのだと睨んだ。
原因は振動問題か。そこで僕は、10cm幅の木材を下に敷いてみた。
俄然良くなった。
おお!これではハイエンドオーディオと同じではないか。僕は驚愕の声を上げたが誰も聞いていない。
で、嬉しくなって親しい知人に電話した。双方で音質チェック開始だ。TAの下に敷いた木材に気を良くした僕は電話機の下にも、90mmのウッドブロックを入れてみた。もうデジタルコードレスが、ひも付き黒電話の雰囲気にさえ似てきた、という。電話の向こう側に伝わったのである。
なにしろ木材といっても身近に有るモノはアピトン合板という音響用に作った相当高級なものだから、悪かろう筈はない。 電話の声の変化にも面白がっている。オーディオ屋というのは、悪い音だけには耐えられない性分らしい。
それにしても、高級オーディオ機器を集めた装置ならともかく、文字通り電話帯域しかない「電話」の音質対策が、ハイエンドオーディオ的手法で格段に向上するとは驚きだった。デジタル回路はアナログより振動に弱い・・・・。

さてその後、すっかり音が良くなった電話機の下にはgrandezza205という商品が今日も敷かれている。お陰でとても売れ行きがよくなった・・・・というほど世間は甘くないけれど、grandezzaの音の良さを知りたい方は、是非電話を下さい。